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                聞き取り調査にたずさわって 田中一弘・大賀英二

 

 去年の暮れから今年の初めにかけて、文化知思想および文化知創造ネットワーク構想に関する聞き取り調査を行いました。取材に協力していただいた方々には、非常に感謝しています。どうもありがとうございました。ここでは調査に携った感想や今後の抱負について述べてみたいと思います。

 

 まず第一に、皆さんが取材の冒頭で言われたのは、「文章が難しすぎてよくわからない」ということでした。第二に、実際の活動においてこの文化知がどのように役立つのかが理解できない、というものでした。取材を申し込んだものの、以上の理由で断られた方もいました。そこで、皆さんはどうしてそのような感想を抱かれたのかを考えてみたいと思います。まず第一に、文章の難解さは、文化知がマルクスの価値形態論の論理という、あまり一般的にはなじみのないものをモデルにしていること、およびあまりにも抽象的な提起の仕方だったことによるものではないかと思います。

 第二に、文化とは何か、ということを私たち協会がどのように考えているか、をまず皆さんにわかりやすく提示すればよかった、と思います。文化とは通常考えられている芸術や科学、思想だけを意味するのではなく、生活様式全般だと、私たちは考えています。別の言い方をするならば、文化とは社会のあり方であって、マルクスが言うとろころの「社会的諸関係の総体」として規定できるのでは、と考えています。経済的領域や政治的領域における人間の諸関係を把握する方法として、私たちは文化知を提唱しています。しかし、その具体的な分析については、まだまだ不十分でほんの入り口に立っただけです。そのため皆さんに上手く説明できずに、ご理解いただけなかったではないかと思います。今後の課題だと考えています。

 ただ、生活に即した政治という立場には多くの方が賛成してくれました。たとえば、藤木千草さんは「生活者ネットワークのスローガンのひとつに、「政治は生活の道具です」というのがあります。だから生活の根本は政治だと捉えています。あなたの生活は政治によって左右されますよ、といいたいですね。」と述べられています。取材させていただいた方々が、生活の場で活動を展開されているため、生活に即した政治という立場を理解していただけたのだと思います。

 生活に即した政治を考えるということは、「政治運動と社会運動を横断した新しい物語」と紡ぎ出すための前提となるでしょう。皆さんはそれぞれの領域で資本主義とは異なる生活のあり方を模索しておられます。そしてその実践は新しい自治のあり方を示しているように思います。まさに「陣地戦」の具体的な実践例となっています。

 

 さらに、個別的な領域での社会運動にとどまらず、自治体や国に働きかける―例えば共同連が中心となり、ワーカーズ・コレクティブネットワークジャパン(WNJ)も参加している社会的事業所の法制化運動―政治活動もされています。

このような運動のあり方は、まさに「新しい物語」を紡ぎ出すことを可能とする場だと考えらます。これまでの左翼運動は党を作り政治権力の奪取による社会革命を目指してきましたが、それとは対照的な運動のあり方だと思いました。左翼が総崩れしている現在の状況において、何が左翼に足りないのか、あるいはこれまでの左翼運動をどのように乗り越えていくのかを考えるべきだと思います。そのための視点を皆さんの活動は提起しているのではないでしょうか。すなわち、市民社会と国家との分裂を前提にした公的領域としての政治活動ではなく、自治としての政治、自らの手で生活様式のあり方を変革していく活動、自己権力を生活の場から構築していく活動になっていると思いました。そのような活動をとおして市民社会と国家との分裂を止揚する新しい共同性のあり方、新しい社会の形成が可能になるのではと感じています。そしてそのような生活のあり方を具体的な政策提言として政治の場で展開することによって、政治運動と社会運動との横断の一つのあり方となっていると思います。このような新しい運動形態を作りだすことによって、政府に対する単なる反対運動としての従来の政治のあり方を変えることが必要だと、私たちは考えています。

 また、皆さんの活動は、一言でいえば社会的連帯経済の構築を目指している、といえるのではないでしょうか。どのようにして社会的連帯経済の社会を構築していくか、という点が「新しい物語」の中心論点になると思いました。そのような社会を構築していくためには、個別的分野でのそれぞれの活動をつなげていくネットワークの形成が不可欠でしょう。そのようなネットワークこそが、国家に替るべき新しい共同性のあり方だと考えられます。研究会の形では、社会的企業研究会や共生型経済推進フォーラムなど各種団体が存在しますが、そこでの理論的な成果を具体的な活動分野での提携に繋げていくことが今後の課題だと感じました。それこそが「新しい物語」を形成し実践していくために不可欠だと私たちは考えています。

私たち文化知普及協会はそのための方法論として文化知を提起しています。今後取材の応じてくれた方々をはじめ、HPをご覧になっていただけた方々との協働作業によって、文化知の内容を具体的に豊富化し、またその過程で文化知創造ネットワークを形成することによって、この課題に貢献できればと考えていす。幅広い方々に当協会との協働作業に参加してくださるように呼びかけます。よろしくお願いします。

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