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         縮小社会研究会/母なる地球を守ろう研究所連続セミナー労働者協同組合学習会
       第4回報告 労働者協同組合法の解説 2021年3月8日 境 毅(生活クラブ京都エル・コープ)
                                連絡先:sakatake2000@yahoo.co.jp

 

目次

序:セミナーの振り返り

1.第1回ではリスク社会という認識と下からのサブ政治、そして時代は変容から変態へ

2.第2回目では商品を蛹にたとえて運動の困難さを表現し、変態を実現する力としての文化に光を当ててみた

3.第3回目ではミニュシパリズムの根っこが地域通貨であることが判明

4.第3回目の議論のなかからの補足

5.第1回目の補足:予防原則

6.動画の紹介

第一部 労働者協同組合法の解説

1.ワーカーズコープによる法制化運動

2.法制化以前の労働者協同組合

3.どのようにして設立するか

1)設立準備活動から (これは第2回目で話しました)

① 発起人会を発足させる

② 法律の趣旨を踏まえる

③ 事業計画を作る

④ 設立趣意書を作成する

2)法人格取得の要件

3)設立後

第二部 営利セクター(株式会社)の変革

1.株式会社の歴史的役割についてのマルクスの提起

2.株式会社と対比された、労働者協同組合についてのマルクスの評価

3.大西広の日本おける株式会社の可能性についての考察

第三部 労働者協同組合学習会を終えて(後日作成)

1.農副連携と労働者協同組合の設立について

2.第1回、第2回のセミナーの時のチャットへの応答

 

序:セミナーの振り返り

 

1.第1回ではリスク社会という認識と下からのサブ政治、そして時代は変容から変態へ

 3回のセミナーいかがでしたでしょうか。多分内容が予想外のものだったのではないでしょうか。私自身あのような報告になるとは考えていませんでした。ある種のライブ感覚で、まだお会いしていないみなさまを頭に置きつつ思考を進めていって、あのような報告になりました。

 最初は、労働者協同組合法の学習会での報告を気軽に引き受けました。私は生協の非常勤理事をしながら、時間がありましたのでさまざまな社会運動にも取り組んできており、その経験を報告しようと考えていたのです。

 ところがもともと政治運動をやっていたので、取り組む課題についてその意味なり役割なりについて明確にしないといけないという強迫観念に取りつかれていて、振り返ってみると膨大な文章がありました。

 あと、コロナ禍のもと、資本がグレート・リセットを計画していることを知り、これにどう対応するかというときに下からのサブ政治が必要だということも1月のセミナーのときに気づき、急遽計画していた報告の見直しをしました。

 そして、1回目は、下からのグレート・リセット構想を考えて、科学技術がもつリスク(上からのサブ政治)に対抗する下からのサブ政治をどう実現していくかという問題の解明を試みました。そして、ベックが現代世界での社会変革を「変容」ではなくて「変態」と考えていることを紹介しました。例えれば蛹から蝶へということですから、私たちは今蛹状態にあるということが判明したのです。

 

2.第2回目では商品を蛹にたとえて運動の困難さを表現し、変態を実現する力としての文化に光を当ててみた

 2回目は、レイドロウ報告の解説でしたが、運動が蛹状態にある、という状況認識を得てみると、世界が変わって見えてきたのです。そして、私が幸運にも生協設立運動に参加でき、以降90年代初頭にさまざまな問題提起をしてきたのですが、それが今こそ理解され実践されるのではないかと考えました。そして当初考えていた報告内容を大幅に変えて、より良い別の世界を創ることをめざした私の想い、ということで報告をまとめました。

 余談ですが、私の人生の大きな節目となった生協設立運動への参加のきっかけは、私の同期生が経営していたパブでの飲み友達を介してでした。イギリスの協同組合などの運動もパブでの交流が随分役立ったとありますが、まさにパブでの付き合いが仲間づくりにつながったのです。そういう意味で、このセミナーで交流会ができないのは残念ですが、しかし交通費をかけずにいろいろな方々と巡り合えるのは、ある意味パブの役割を果たしているように思います。

 

3.第3回目ではミニュシパリズムの根っこが地域通貨であることが判明

 3回目は、社会的経済と連帯経済について、その担い手を報告する予定でした。私はそれが今はやりのミニュシパリズムの根っこだと考えていたのです。しかし、報告を準備していく過程で、またまた新しい発見がありました。一つは資本を蚕の繭にたとえてうまく説明できること、そしてもっと根本的なことは、根っこは各企業や団体ではなくて、それをつないでいる地域通貨(時間銀行や補完通貨)だということがスペインの事情を調べて分かったのです。それで2011年のアラブの春、エジプトのタハリール広場、スペインの15M、ニューヨークのオキュパイウォールストリートという一連の動きを下からのグレート・リセットの烽火と捉え、スペインの意場合15Mから社会的連帯経済の新しい動きが始まり、PAHなどの活動と地域通貨がその根っことなっていることがわかったのです。

 

4.第3回目の議論のなかからの補足

 報告内容があまりにも多く、セミナーでは十分説明できませんでしたが、報告文章をお読みください。この時に五十嵐さんから社会的連帯経済は工業に対してはどう対応するのかという質問があり、これについては今回の報告の第2部に急遽盛り込みました。株式会社をどうするかという問題です。

 また、連帯経済については十分説明できませんでした。ラテンアメリカの連帯経済について、報告当日の午前にやっと『ラテンアメリカの連帯経済』(幡谷則子、上智大学出版)に目を通しました。そこで気づいたのですが、アンデス高原の先住民の宇宙観「ブエン・ビビール」です。これが2008年にはエクアドル憲法に盛り込まれました(54頁)。これはラトゥールの問題提起と通底しています。このブエン・ビビールが連帯経済の思想的よりどころのようです。ヨーロッパ南欧の活動家たちはラテンアメリカの運動に注目していてメキシコのサパティスタ蜂起のときにも応援しました。スペインの活動家たちは、エクアドル憲法にも注目していたと思われます。これも五十嵐さんからの示唆でわかりました。

 アンデス先住民の宇宙観は、おそらく、3大文明で世界宗教が同時的に誕生しましたが(グレーバー『負債論』参照)、それによってそれまでの宇宙観は邪宗として退けられました。アンデスの文明では世界宗教はおそらく成立していないでしょう。とすると邪宗として退けられることなく、またスペインの植民地支配に抵抗する思想的根拠とすることで、現代的意義をもつようになったのでしょう(これは実証しなければなりませんが)。 

 あと、3回目では急遽伊丹さんに報告していただきました。現実に存在しているテレストリアルだったからです。これについてルールなしでやっているということについて疑問が出されました。私はこの問題について、この運動を一つの文化運動と捉えると理解が進むように感じています。文化は共感による感染で広がっていきます。おそらく横井さんは新しい文化を発信しているのでしょう。それが参加者たちに共感され感染し、いい意味での「感性的なものの分有」が作り出されているのでしょう。私も滋賀県堅田の竹村農園で、田んぼを借りて引きこもりの若者たちと一緒に農業体験をしたことがあります。これをきっかけに公務員出身で引きこもっていた若者が新規就農に挑戦しています。また、地域通貨を体験して、大企業をやめて森林組合に入るとかもあり、これらは人生の転機となるような体験の場だったのですね。

 

5.第1回目の補足:予防原則

 第1回目で触れられなかったのは予防原則です。「予防原則とは、化学物質や遺伝子組換えなどの新技術などに対して、環境に重大かつ不可逆的な影響を及ぼす仮説上の恐れがある場合、科学的に因果関係が十分証明されない状況でも、規制措置を可能にする制度や考え方のこと。」(ウイキペディア参照)ですが、EUでは遺伝子組み換え食品や狂牛病に適用されましたが、日本ではまだまだ普及していません。第四次産業革命の中身が人の身体にかかわる技術であり、壮大な人体実験が始まろうとしているときに、下からのサブ政治の目標として、予防原則を普及させていくことが大事で、そのためには科学者の協力が欠かせません。

 

6.動画の紹介

 このセミナーではありませんが、京都の守田さんから「コロナ禍の社会をどう生きるのか、アフターコロナで何を目指すのか」と題した藤原辰史さんの動画を紹介され見てみました。その印象的なお話のあと、次々と新しい動画に切り替わっていって、気候変動への抗議行動を展開しているFridys For Future の若者たちと斎藤幸平さんを招いた動画をしっかり者の安田菜津記さんが司会していたものもありました。このような企画がSNSで配信されているのを知って、元気づけられました。テレストリアルからのグレート・リセットは私の妄想ではなくて、世界中で同時に発想されています。

 

コロナ禍の社会をどう生きるか −藤原辰史 さんに聞いてみよう−
https://youtu.be/o9F4HprwTUM

 (音声が途切れがちで聞き取りにくいですが)
 

 

第一部 労働者協同組合法の解説

 

1.ワーカーズコープによる法制化運動

 

 法制化を進めた団体は、ワーカーズコープとワーカーズ・コレクティブでした。ワーカーズコープのHP「わたしたちの軌跡」には、法制定に至る活動経過がまとめられています。

 

わたしたちの軌跡

 

〇1971~1985 失業者・中高年の仕事づくり―「事業団」の出発と成長

1971 兵庫県西宮市で高齢者事業団が産声を上げ、全国各地で「失業者・中高年者」の仕事づくりをめざす「事業団」が誕生。自治体からの委託事業を柱に事業が広がる。

1979 全国から36の事業団が集い、「中高年雇用・福祉事業団全国協議会」を結成。

1982 全国協議会が直接運営に携わる「直轄事業団」を千葉県流山市に設立。病院の総合管理の仕事を柱にした事業団の設立が短期間で全国各地に広がる。

1983 欧州に調査団を派遣し、「労働者協同組合」の調査・研究・組織のあり方の検討を開始。

〇1986~1991 「労働者協同組合」(ワーカーズコープ)としての旅立ち

1986 第7回全国総会で労働者協同組合への組織的発展を決定。「中高年雇用・福祉事業団全国協議会」から「中高年雇用・福祉事業団(労働者協同組合)連合会」へと発展。
1987 直轄事業団と東京事業団が統合し、モデル労協としての「センター事業団」を設立。
協同組合間連携による物流業務などの事業が大きく広がり始める。
全国協同集会プレ集会を静岡県伊東市で開催。
1991 「協同総合研究所」を設立。
CICOPA(労働者協同組合委員会)の会議参加を機に国際活動が活発化。

 

〇1992~1998 労働者協同組合への改革・高齢者協同組合づくり

1992 労働者協同組合としての「新原則」を確立。
国際協同組合同盟(ICA) 東京大会で、11番目の日本の協同組合としてICAに加盟。
1993 映画「病院で死ぬということ」の制作・上映運動に取り組む。
1995 阪神・淡路大震災の被災地に入り復興支援活動を実施。NPO・市民活動との連携が広がる。
ヘルパー養成講座の開催と高齢者協同組合づくりへ。三重県で全国初の高齢者協同組合が誕生。

1998 「労働者協同組合法」制定運動推進本部が発足。法制化運動を本格的に開始。

 

〇1999~2006 地域福祉事業所づくり・新しい福祉社会の創造へ

1999 介護保険制度開始を前に、ヘルパー養成講座を全国的に取り組む。
「ワーカーズコープ方式」の「地域福祉事業所」づくりを、講座修了生と共に開始する。訪問介護やデイサービスの事業へと発展。
2000 「協同労働の協同組合法制化をめざす市民会議」を結成。

2001 全国の高齢者協同組合を結ぶ「高齢者生活協同組合連合会」が結成される。
2002 第23 回全国総会で、「協同労働の協同組合」の新原則を確立。
2003 「全国ケアワーカー大集会」を沖縄県名護市で開催、延べ2,000 名が参加。
2004 労協連25 周年記念国際シンポジウムをILO の協力のもと、国連大学で開催。
2005 千葉県芝山町で「若者自立塾」を受託。困難にある若者支援の事業を開始。

 

〇2007~2010 「協同労働の協同組合」の法制化・完全就労社会の実現へ

2007「協同労働の協同組合」法制化を求める団体賛同署名運動、全国10 都市で「法制化を求める市民集会」を開催。市民会議会長に笹森清氏(元連合会長)が就任。
2008 「協同出資・協同経営で働く協同組合法(仮称)を考える議員連盟」が発足。コミュニティ産業と就労創出をめざす「コミュニティ事業支援条例」要綱案を発表。

2009 日本労協連30 周年。協同労働法制化の早期制定を求める自治体意見書が700 議会を突破。
2010 超党派議員連盟で協同労働法要綱案が採択、各党の審議に。
埼玉県より生活保護受給者の自立・就労支援事業「アスポート」を受託(以降、全国に広がる)。

 

〇2011~ 協同労働の地域化・社会化 -持続可能な地域づくりへ

2011 完全就労社会の実現をめざした「公的訓練・就労事業制度」(仮称)を発表。
3.11 東日本大震災を機に、第32 回全国総会でF(食)E(エネルギー)C(ケア)が自給循環するコミュニティづくりを方針化。

東北復興本部を仙台、西日本本部を京都に開設。
2012 国連国際協同組合年の全国実行委員会・幹事団体に参加。
全国協同集会を盛岡、埼玉で開催、延べ5,000 人が参加。
『協同で仕事をおこす』を出版。
ドキュメンタリー映画『ワーカーズ』を制作、上映運動を開始。
2013 センター事業団但馬地域福祉事業所が自伐型林業グループを立ち上げ。農業、林業

野を通じた循環型地域づくりが本格化。

2014 全国協同集会を福岡で開催、延べ3,000 人が参加。
韓国地域自活センター協会との間で「包括的協同協定書」を締結、交流を深める。
2015 新原則を確立。
生活困窮者自立支援事業を全国80 の自治体で受託、事業開始。
市民参加のフードバンク、子ども食堂が全国に広がる。

2016 国連有識者会議「持続可能な開発のための国連2030アジェンダの実施におけるパートナーとしての協同組合セクター」に招聘。

2017 超党派の「協同組合振興研究議員連盟」、与党法制化ワーキングチームによる協同労働法制化に向けた議論が開始される。

 

2.法制化以前の労働者協同組合

 

 2019年末現在、ワーカーズコープでは、約1万4千人が、ビルメン、介護保険事業、公共施設の運営、就労支援など、60種類以上の業種で働いています。事業高は約350億円。他方、ワーカーズ・コレクティブでは1万人が家事援助や介護、保育や育児、生協の業務委託、弁当や食事のサービスなどの事業を展開しています。340団体で事業高は134億円に上ります。

 他には倒産企業の労働者管理で事業を継続している、全金田中機械やパラマウント製靴があります。

 ところで、ワーカーズ・コレクティブの場合、4割近くの団体が法人格を取得しておらず、「人格なき社団」に分類されるのですが、コロナ禍で起きた国の事業者救済の「持続化給付金」を申請できないという問題が起きました(『ガイドブック』42頁)。

 

3.どのようにして設立するか

 

1)設立準備活動から (これは第2回目で話しました)

 

① 発起人会を発足させる

 労働者協同組合法が成立しました。皆さんこれからこの法の下で労働者協同組合をつくろうと考えてみてください。そのような観点から本日の報告をさせていただきます。

 まず、有志を募って設立発起人会を立ち上げます。その際に設立趣意書が必要です。発起人会では定款も作らなければなりませんが、こちらの方は当局が模範定款を作りますので、それを引き写せばいいのです。勝手に独自なものを作ってもいいのですが、法律の内容と齟齬が出たりすると認められませんので模範定款でいいと思います。

 

② 法律の趣旨を踏まえる

 法人ですから根拠法から逸脱はできません。労働者協同組合法第一章 総則(目的)第一条は次のように述べています。

 「この法律は、各人が生活との調和を保ちつつその意欲及び能力に応じて就労する機会が必ずしも十分に確保されていない現状等を踏まえ、組合員が出資し、それぞれの意見を反映して組合の事業が行われ、及び組合員自らが事業に従事することを基本原理とする組織に関し、設立、管理その他必要な事項を定めること等により、多様な就労の機会を創出することを促進するとともに、当該組織を通じて地域における多様な需要に応じた事業が行われることを促進し、もって持続可能で活力ある地域社会の実現に資することを目的とする。」

 法律全文は次です。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=502AC0000000078_20221210_000000000000000

 

③ 事業計画を作る

 NPO法人の場合は、特定非営利活動として活動分野が指定され、多くは事業にはならないような活動が多いので、あまり考えずに申請できますが、協同組合の場合はいかなる事業を選択するかは大事な問題です。その際に法の趣旨を踏まえつつ「共通の経済的・社会的・文化的ニーズ」をくみ上げて具体化していく必要があります。また、この法律では、働く人々は労働契約を結ぶことになりますから、最低賃金が保障できるような事業内容となります。

 ひとつの選択肢は、私が高槻市でやっているような障害福祉サービス事業を構想することです。この場合スタッフが組合員で、利用者は非組合員となります。ハイブリッドな労働者協同組合ですね。あと、ヨーロッパでは自治体が仕事を保証したりもしています。日本ではこれは無理なので、介護保険事業とかもありうるでしょう。あと農業の分野では出荷組合ですね。

 あと事業をやるには経理担当者をきちんと用意しなければなりません。外部委託もできますが。

 

④ 設立趣意書を作成する

 設立趣意書は、法の趣旨を踏まえたうえで、今日のさまざまな社会問題の解決をめざすために***の事業を始める、という内容になりますから、社会の現状把握とともに、解決可能な諸問題をあげて、それをどのように解決していくかということを簡潔に述べなければならないでしょう。

 「共通の経済的・社会的・文化的ニーズ」をくみ上げて、それを事業化する必要性を訴えるものとなります。

 

2)法人格取得の要件

 

 『労働者協同組合法ガイドブック』より

① 組合組織の人数

 最低3人の組合員から。代表理事1人、理事2人、監事は外部から。代表理事は労働契約なし、理事二人は労働契約を結ぶ。

 監事を内部から選ぶ場合は、最低5名の組合員が必要。労働契約締結者が組合員の過半数必要で、監事は代表理事同様、労働契約の対象外だから。

 監事を「組合員監査会」(組合員3人以上で構成、組合員が20名以下の場合に設置可能)にする場合は最小6名が必要。

 

② 休職者の制限

 総組合員に対する休職者の割合は5分の1まで。20人の組合員の場合、16人以上が働いている必要がある。

 

③ 非組合員の制限

 事業に従事している人のなかでの非組合員の割合は4分の1まで。20人が働く場合、15人は組合員であることが必要。

 

④ 組合員の要件

 出資、議決権の行使、事業への従事。労働契約の締結。加入脱退の自由。

 

⑤ 事業の性格

 非営利事業であるが、剰余金は配当できる。

 

⑥ 設立手続き

 準則主義、法務局で登記する。

 

⑦ 障害福祉事業への配慮

 働く障害者を組合員に組織しなくてもいい。

 

⑧ 法人格の移行

 企業組合、NPO法人から移行できます。

 

3)設立後

 

① 開業届、労働契約、労働保険などの手続き

 

② 会計年度終了後に速やかに財務諸表の提出

 

③ 納税

 

第二部 営利セクター(株式会社)の変革

 

 労働者協同組合法の目的は、地域社会での事業の展開でした。他方で工業は営利セクターである株式会社に担われています。この領域をどうするのか、これは大きな問題です。ここではマルクスが『資本論』第三巻で述べている株式会社と協同組合の二本柱で次の社会を展望していることを跡付け、そして大西広さんの株式会社の変革論を紹介します。

 また五十嵐さんからは、この観点からではなくて工業と社会との折り合いをどうつけるかという点からの哲学の必要性が提起されています。そのためにはアンデス先住民の宇宙観に学ぶ必要があるのかもしれません。今後の課題です。

 

1.株式会社の歴史的役割についてのマルクスの提起

 

 マルクスの時代にも、各種の協同組合がありました。マルクスは後述するように、労働者協同組合を高く評価しましたが、『資本論』第三巻、第27章では、株式会社の歴史的役割について次のように述べて、株式会社も労働者協同組合と並ぶ過渡期の生産様式として位置付けているのです。重要な問題提起であるにもかかわらず、あまり顧みられてはいないので、少し長いですが、以下に引用しておきます。引用文献は、エンゲルスが編集した現行版ではなくて、マルクスのノートからの翻訳である、大谷禎之介訳『マルクスの利子生み資本論』第2巻(桜井書店、2016年)を採用しています。

 「株式会社の形成。これによって第1に、生産規模のすさまじい拡張〔が生じ〕、そして私的諸資本には不可能な諸企業〔が生まれる〕。同時に、従来は政府企業〔だった〕ような諸企業が会社企業〔社会的企業〕になる。第2に、即自的には社会的生産様式を基礎とし、生産手段および労働力の社会的集中を前提している資本が、ここでは直接に、私的資本に対する会社資本〔社会資本〕(直接にアソシエート<連合>した諸個人の資本)の形態を与えられており、資本の諸企業が、私企業に対立する会社企業〔社会企業〕として〔現れる〕。それは資本主義的生産様式そのものの限界の内部での、私的所有としての資本の止揚である。第3に、現実に機能している資本家が(他人の資本の)たんなるマネージャーに転化し、資本所有者は単なる所有者、単なる貨幣資本家に転化すること。・・・(中略)・・・株式会社では機能と資本所有とが、したがってまた労働と生産手段および剰余労働の所有とが、全く分離されている。資本主義的生産が最高に発展してもたらしたこの結果こそは、資本が生産者たちの所有に、といっても、もはや個々別々の生産者たちの私有としての所有ではなく、アソシエートされた<連合した>生産者としての彼らによる所有としての所有に、直接的な社会的所有としの所有に、再転化するための必然的な通過点である。それは他面では、資本所有と結びついた再生産過程上のいっさいの機能の、アソシエートした<連合した>生産者たちのたんなる諸機能への転化、社会的機能への転化である。」(『マルクスの利子生み資本論』第2巻、290~2頁)

 このころはまだ、証券市場が未発達で、アメリカのように、ウォール街を支配している証券会社の諸団体による株式大企業の設立(ヨーロッパの場合、大企業は商業銀行が与信しました)のような事態は当然マルクスの視野には入っていません。

 

2.株式会社と対比された、労働者協同組合についてのマルクスの評価

 

 この株式会社の歴史的役割の叙述に続いてマルクスは労働者協同組合についても次のように述べています。

 「労働者たち自身の協同組合工場は、古い形態の内部では、古い形態の最初の突破である。といっても、もちろん、それはどこでもその現実の組織では既存の制度のあらゆる欠陥を再生産しているし、また再生産せざるをえないのではあるが。しかし、資本と労働との対立はこの協同組合工場の内部では止揚されている。たとえ、はじめにはただ、労働者たちがアソシエーション<連合体>としては自分たち自身の資本家であるという形態、すなわち生産手段を自分たち自身の労働の価値増殖のために用いるという形態によってでしかないとはいえ。この工場が示しているのは、ある生産様式から、物質的生産諸力とそれに対応する社会的生産諸形態とのある発展の段階で、新たなある生産様式が、自然的に形成されてくるのだ、ということである。協同組合工場は、資本主義的生産様式から生まれる工場システムがなければ発展できなかったし、また資本主義的生産様式から生じてくる信用システムがなくてもやはり発展できなかった。信用システムは、資本主義的私的企業がだんだん資本主義的株式会社に転化していくための主要な土台をなしているのであるが、多かれ少なかれ国民的な規模で協同組合企業がだんだん拡張して行くための手段をも提供するのである。資本主義的株式企業も、協同組合工場と同様に、資本主義的生産様式からアソシエートした生産様式への過渡形態とみなしてよいのであって、ただ、一方では対立が消極的に、他方では積極的に止揚されているのである。」(同書、296~7頁)

 

(注)訳語問題について。従来の翻訳では、「associirt」も「kombiniert」とともに『結合』と訳されていますが、両者を「連合」と「結合」というように訳し分けるべき、と武田信照が指摘しています(武田信照『株式会社像の転回』、梓書房、2002年、178頁)。また、田畑稔は、コン バインドな労働をアソシエィテッドな労働にしていくことが、運動の基本的内容をなす(田畑稔『マルクスとアソシエーション』、新泉社、27頁)と述べています。なお、〔  〕内は訳者大谷禎之介による補充で、< >内は訳語問題での筆者の補足です。

 この記述は、1980年代に入って、日本でもマルクスのアソシエーション論が研究されるようになって、ワーカーズ・コレクティブやワーカーズコープなどの協同組合関係の実践者以外にも周知のものとなりました。

 

3.大西広の日本おける株式会社の可能性についての考察

 

 マルクスの株式会社についてのこの評価は、日本の株式会社には無縁のように理解されかねません。日本では、巨大株式会社は資本主義の牙城のようにしか見えません。しかし、社会主義理論学会で一緒に中国の学会に参加した大西広慶応大学教授は、日本の株式会社も次の社会への過渡的な企業形態として捉えています。

 大西は、『格差社会から成熟社会へ』(大月書店、2007年)で、「成熟社会における企業――市場と株式会社がもたらす社会主義」を構想し、「『株式会社と大衆的な証券取引を基礎とした社会主義』――これが私の提案である。」(『格差社会から成熟社会へ』、145頁)と述べています。その内容は、第三回中日社会主義フォーラム報告「株式会社による『社会化された企業による社会』としての社会主義」(2012年9月)で次のように具体化されています。入手しにくい冊子なのでたくさんの引用をしておきます。

 「全国民経済を覆う社会経済システムの中にも新たな社会を先取りしたものはいくらでも存在し、わたしはいわば常識的に現在の『株式会社』それ自身を将来における基底的な企業形態と想定できるものと考えている。」(フォーラム報告冊子、141頁)

 「上場企業に資料の公開を義務付け、さらにその範囲を拡大しようとのこの変化は、それら企業を一種『社会的所有物』と看做したものと理解できるからである。」(同書、141~2頁)

 「これは結局ウオッチングという方法によって社会の全構成員の意志を企業に反映させるという意味で『企業の社会化』と言える。つまり、『社会化』といえばすぐ狭義の『所有変革』だけを思い起こすのではなく、何が全社会構成員の意志を実際に反映できるのかをこそが考えられなければならず、もしそうするとまったく別の『社会化』概念=『社会主義』という言葉の語源を形成する概念に行きつくこととなるのである。」(同書、142頁)

 「ところで、こうして情報公開に注目すると、この公開義務は株式会社制度、特に株式上場制度と深く結びついている。大衆株主が株式市場に上場された株式を売買する制度が有効に機能するには企業業績が正しく公共に知られる必要がある。それによってはじめて『潜在的株主』としての全社会構成員が当該企業の株式を購入したり売却したりできるからである。・・・・こうして経営者は全社会構成員の日々の厳しい監視の下におかれている。これが『会社が全社会構成員のコントロール下におかれる』ということである。政府役人の監視ではなく、こうして全社会構成員の監視の下におかれることとなっているのである。

 このように考えた場合、問題となるのはこの情報公開=『監視』が株主権限の保障の要請にその根拠を置いているということである。『株主権限』が『潜在的株主としての全社会構成員の権利』に拡張した結果であるのだから、これは『企業を労働者のものに』という『社会主義的理念』と異なった思想的起源を持っているように見えるからであるが、私の考えでは『社会主義的理念』とは厳密には企業で働く労働者の統制権ではなく、『社会の統制』をこそ重視するものであった。それでこそ真に『社会化』と言えるというのが私の立場である。・・・・この意味で経営者の経営手腕の監視は直接には全社会構成員によるものこそが本来の『社会主義』理念に適合的であると私は考えている。」(同書、142~3頁)

 「したがって、『株式会社制度』にはその発達によって新たな可能性が拓かれつつも、やはり依然として改善されるべき問題が存在する。しかし、このことを逆に言うと、大衆株主の利益を守りながら、株式制度の改善をすることができることを示している。こうした方向性で、市場システムを前提とする真に『社会化された企業による社会』、すなわち『社会主義社会』の建設を構想することは可能である。」(同書、145頁)

 中国研究者として長い研究歴を持つ大西にとって、日本の株式会社についてのこのような考察も、私からすれば、中国の株式会社の特徴に学んでいると同時に、中国への提言でもあるように思われます。

 

第三部 労働者協同組合学習会を終えて

 

1.農副連携と労働者協同組合の設立について

 セミナーが終わってから気づいたことですが、労働者協同組合の設立を単体で考えるのではなくて、地域のさまざまな事業体と連携した形での構想が必要だと思っています。そのためにはモデル地域を設定して、そこにどのようなニーズがあるかを調査し、それに対応できるような地域像を描き、それの実現のために計画を作るという作業が必要かと思いました。

 そのためには地域の事業所として、各種協同組合、介護の事業所、障害福祉の事業所、等々の横つなぎが実現できるかどうか。日本協同組合連携機構(JCA)が立ち上がって、大きな組織の連携の模索が進められていますが、私は2018年の発足時の理事に、女性がいないことを知って失望しています。しかし、この組織が今地域でどのような活動をしているのかも調べる必要があるでしょう。

 また、報告の時には調べられていませんでしたが、内閣府が2019年4月から「農副連携等推進会議」を行い、同年6月4日付で「農副連携等推進ビジョン」を発表しています。農水省のホームページにはさまざまな支援策が出ていました。障害福祉サービス事業を取り込んだ農業分野での労働者協同組合が非常に現実的となっています。

 

2.第1回、第2回のセミナーの時のチャットへの応答

 

1) 2月22日のチャット

① 第1回目資本とグレート・リセットは、非常に多岐の分野にまたがっています。メインテーマに入る前に、気候変動問題とか遺伝子組み換え問題とか、AI,ロボットデジタル化や科学技術の弊害問題などとどう関係してくるのでしょうか?また、主題に繋げていくために必要なことでしょうか?

◯ リスク社会になっているという理解をコモンセンスとし、予防原則について周知し、下からのサブ政治によって、科学者たちと市民との連携を作ることが大事だと考えています。予防原則は、気候変動、遺伝子組み換え、AI、デジタル化等々の諸問題を横断しています。

 

② 労働者協同組合の役割は、労働者の立場で雇用環境の維持発展や企業の社会的使命などについて労働者の立場で試行していく。・・・ 労協の一番の目的は、雇用(生業)を自らが構築していくことかと思いますが、更には、雇用(生業)が社会のために寄与できるかなということだと思いますが、

 私も「農」について第一次産業に労協を活用して、有志で出資して、農業・林業などでの雇用環境を構築できればと感じます。

◯ それぞれ頑張っている多くの団体を横つなぎして大きな力と持続性を獲得していくことが問われています。スペインでは地域通貨がその役割を果たしていることを報告しました。日本でも前世紀末から今世紀初頭にかけて多くの地域通貨の団体が立ち上がりました。

西部忠編著『地域通貨』(ミネルヴァ書房)についての学習会から始めるのもいいでしょう。

 

③ 日本で欧州と違って根っ子を抜くチカラが働いていると言われましたが、それは何なのでしょうか?水田農業が作り上げたムラ社会?リスクを口に出すことを忌避する呪術的な社会(逆説の日本史の井沢元彦、内田樹氏が指摘)のメンタリティのため?

◯ この問題については、さまざまな意見があります。日本語の構造の問題だという意見もうかがっています。私はこれを日本の官僚制の問題だと考えています。つまり第二次大戦に敗北し、マッカーサーによる戦後処理が行われ、憲法改定、土地の解放、財閥解体などの民主化がなされましたが、唯一官僚制だけが戦前のまま生き残ったのです。明治時代にできた「官制」がそのまま継承されました。だから公務員は全体の奉仕者だと憲法に規定されましたが、官僚の方は地方自治体の役人も含め、民の横つながりを許さないのです。現在の菅首相に典型的な「国民のお役に立ちたい」という言葉は偽善で、やっていることは自分たちの利権の拡大です。地方自治体の公務員も天下り先の確保ということを優先しているのです。

 

④ 違いをチカラにする。素晴らしい意見をありがとうございます。有機農業運動も小さな差で叩きあっている気がします。むかしのガンダムのアニメの歌詞ではないですが、「巨大な敵を撃てよ」と言いたいですね。

◯ これを実現するにはスペインの15Mのような共通体験が必要なのでしょうね。コロナ禍という共通体験を通してこの境地に到達できますでしょうか。ラトゥールは期待していますが。SNSを使った発信をお互いに交差させる中で差異を力にする新しい政治力学を生み出したいですね。

 

④ 運動の対象:気候変動とか、遺伝子組み換えとか 運動の方法:労働者協同組合(とか)

という関係でしょうか?

◯ リスク社会という認識の共有化、予防原則を武器にサブ政治を行い、団体の横つなぎを実現していく。運動の対象はリスクを生み出す森羅万象。運動の方法はサブ政治、経済的つながりとしての地域通貨、等々。

 

⑤ 先ほど選挙の話がありましたが、選挙だけでない、事業なりボランティアなり、実態をつくることとセットで進めていくべきことだと思います。そのことが当事者性をもつ運動をつくっていくのだと思います

◯ ミニュシパリズムは、ベッグが『変態する世界』で予想した世界都市が、現実のものとなり、それを土台に、国民国家の枠を超えた新しい政治運動ですから、代表制になじまないですね。労働者協同組合法を読んでみてボランティア参加が困難な内容になっています。国としてはボランティアを自治体の独占物にしようという思惑があるように感じています。たとえば古くは社会福祉協議会、現在はシルバー人材センターとか、また詳しくは知りませんが災害ボランティアなども縦型の系列に組み込まれているのではないでしょうか。ボランティア活動すら民の自主的活動としては寄り添わない姿勢が見られます。日本で一番発達したワーカーズ・コレクティブ運動を展開している神奈川では、自治体との関係でずいぶん苦労したというお話を聞いたことがあります。

 

⑥ ヨーロッパでミュニシパリズム運動が一定の成果が出始めているのは、水道事業の民営化による弊害が目に見える形で出てきたから、再公営化を中心基軸として広がった。・・・では、何を基軸にするべきか?私は,農を取りまく諸問題ではないかと思っている。各都市、地域が共通して取り組める基軸は???

◯ 教えていただいたラテンアメリカの先住民の宇宙観についてはぜひ研究会をもちたいですね。

 ラテンアメリカの注目すべき最初の運動はメキシコのチアパス州の先住民サパティスタでした。崎山政毅さんが調査しています。崎山著『サバルタンと歴史』(青土社)参照。あとサパティスタ関係の本は数点翻訳されています。武装してメキシコシティまで行進したのですが、独立は要求せず、自治権の拡大を求めました。またインターネットの利用にたけていて、メディア戦略で南欧の活動家たちを魅了しました。ビール・ビエンはこれに続く動きでしょうか。

 

⑦ 遺伝子組み換え食品の危険性が監督官庁に指摘され認可されないことが何度か続いたが、最終的に米国で認可されたのは、息子ブッシュ大統領時代に政治的に動いたから。日本が米国産遺伝子組み換え食品の世界最大輸入国になっているのは、日本の政官が十分な交渉をしてこなかったことが(要は対米従属、官・判事は政治家に対しヒラメ化)、大きいと思います。残留農薬基準値の問題も同様(例えば茶葉の場合、日本はEUの2500倍)。この実態を知らせない政官メディアの罪は大きく、また市民の無関心も問題だと思います。知のネットワークを強靭にすることが不可欠ですが、容易ではないです。少なくとも、選挙の際、大きな論点にするのが良いかと思います。何か良いアイデアありますか。

◯ コロナ禍をチャンスにしましょう。みなさんユーチューブで情報を配信しましょう。

 

⑧ 遺伝子組み換えなど最新の科学に対して市民からの反対には単なる感情・感覚ではなく、こちら側にも科学を取り込む必要があると思います。ともすれば科学性悪説の雰囲気が感じられるのが心配です。

◯ その通りです。問題意識ある科学者や研究者たちとの連携が不可欠です。

 

⑨ ゲノム編集技術については欧州の基準と米国や日本の基準は全く違います。欧州は過程に人為的な技術があれば表示を義務付けています。日本や米国は過程な一切無視して製造物に問題がなければOKというかなり欺瞞的なものです。ちなみにコロナワクチンもゲノム編集技術で作られています。

◯ 遺伝子組み換えに代わる技術として登場し、非常に安価になったことで広範に応用実験されているようです。私もこれから勉強するところです。吉野由利『ゲノム編集の光と闇』(ちくま新書)を読もうとしています。

 

⑩ MMTについて

◯ あと発言された方で、MMT(現代貨幣理論)にかかわるご質問がありました。これは実は私の専門分野の一つですが、2020年はラトゥールに魅了されていたりで、仕事がはかどっていません。銀行券と国家紙幣の違いがポイントですが、定説はありません。さしあたっては、山口薫『公共貨幣』(東洋経済新報社)をお勧めしています。銀行券によるベーシックインカムは、財源が必要で国債発行による利払いが生じますが、国家紙幣だと財源は要らないのです。この辺の理解は面白いです。

 

2) 2月26日チャット

① 前回は官庁が市民の横の連帯のつながりを邪魔してると分析されましたが、資本主義社会からの逸脱を目指した有機農業運動とかコミューンが仲が悪いのはなぜだと思いますか?。私が知っている限り、このような人たちは階級闘争理論のような観念や理性にもとづく同一性ではなく、ヒッピーのように感性の共感で会社をドロップアウトしたような気がするのですか。

◯ スペイン15Mでもフランスの思想家ランシエールが注目されています。「感性的なものの分有」です。優れた紹介本が市田良彦さんの『ランシエール : 新<音楽の哲学>』(白水社)です。古代ギリシャのアテネの奴隷はものをいう道具で、人間としては認められていませんでした。そういう事態を感性的なものの分有という発想で説明したのです。そうすると既成の感性的なものの分有にどのようにして亀裂を入れていくかという課題が明らかとなり、文化の役割が見えてきます。

 

② 対話はどう思いますか?ビア・カンペシーナのような食料主権を目指したラテンアメリカは、知の対話、水平的な関係性を大事にしたというのが私の理解なのですが。そして、そこで大事になるのが、ブラジルの教育者、パウロ・フレイレの抑圧から解放される教育論ですが、どう思われますか?

◯ フレイレについては、私が参加している若者たちのDIY読書会を主宰している「ジャンル難民学会」の若者がいつも報告していました。しかし、ミードが明らかにした、対話関係で聞き手が一般的他者の態度をとる、というような理解はなかったように思います。

 

③ 生協の産直運動に期待されるとのお話がありましたが、1970年代から有機農業運動とも連携して先人の方々が苦労して取り組んで来られたものの、結局は市場流通を変える大きな動きにはなってこなかったのが現実ではないでしょうか。

◯ 私が考えるグレート・リセットは大きな生協の新たな可能性を探る試みも含んでいます。コロナ禍による食糧危機に直面すれば、国は食糧自給に舵を切らざるを得ないでしょう。そのような大きな変化があれば、既成の大組織の改革も進むのではないでしょうか。そのような視野もぜひ確保しておきたいです。

 

④ デューイでなくだれでしょう。C・S・パース、ウィリアム・ジェイムズ?レヴィナスが出てくるとは思いませんでした。

◯ ミード『精神・自我・社会』(人間の科学社)でした。ミードはアダム・スミスの『道徳感情論』の、人は他人を鏡にして人になるというくだりを一般化して、対面関係で、見られた側が一般的他者の態度をとると解読しました。これが国家の政治が内面化されていく根拠です。たとえば犯罪に直面した人は個人でありながらその仕草によって法律の化身となっているのです。

 だとすれば、人が一般的他者の態度をやめてオルタナティブな態度にどう変化していけるかという問題が提起されます。それは聞き手の役割です。左翼はもっぱら話しかけて相手を説得しようとするのですが、変態の時代にはそれは通用しないでしょう。そうではなくて聞き手になって相手の変容を促すのです。でもその場合、聞き手が新しい文化の担い手であることが問われるでしょう。ミードから引用しておきます。

 「もし所与の人間個人が、十全な意味で自我を発展させようとするなら、彼は人間の社会過程のなかで、他の人間個人の彼自身および相互に向けられた態度を単に取得するだけでは不十分である。また、彼はそのような見地から、全体としてのこの社会過程を彼の個人的経験のなかに単に持ち込むだけでは不十分である。彼はまた、彼自身および相互に向けられた他の個人の態度を彼が取得するのと同じやり方で、組織化された社会または社会集団の成員として、彼らがすべて従事している共通の社会活動または社会事業の系列のさまざまな局面または側面に向けられた他の個人の態度を取得しなければならない。」(192頁)

 「一般化された他者の形態のなかで、社会過程は、そのなかに含まれ、それを遂行する個人の行動に影響を及ぼすのである。すなわち、共同体は、その個々の成員の行為に対する統制を行使するのである。というのは、このような形態において、社会過程ないし共同体は決定的要因として、個人の思考のなかに入るからである。抽象的思考にあっては、個人は、彼自身に向けられた一般化された他者の態度を、他の特殊な個人におけるその表現に関係なく、取得する。具体的思考にあっては、彼は、所与の社会的状況または行動のなかに彼がいっしょに包含されている他の個人の彼の行動に向けられた態度のなかに、それが表現されている限りで、その態度を取得する。しかし、この二つの方法のどちらにおいても、彼自身に向けられた一般化された他者の態度を取得することによってのみ、彼は思考できるのである。」(193頁)

 ついでにレヴィナスですが、彼の問題意識はナチスに加担したハイデガーの思想的ポイントの批判で、論理だけで世界を解釈することを批判しました。初対面の見知らぬ他民族の人の「顔」が、「汝殺すなかれ」と発信しています。これは一つの倫理的関係ですが、これを土台に世界をとらえようという発想です。論理の前に倫理があると見たのです。彼の主著『存在の彼方へ』が、明らかにハイデガーの『存在と時間』を意識したもので、レヴィナスは論理の彼方へ行こうとしたのです。

 

3) 高見優さんのご意見

 根っこをどう作るか。現場で仲間を増やし、全員が出資し事業を起こし働き運営しています。法人格が違っても、協同労働を取り入れられます。生協、一社、一財で、実践中。各地域で協同労働ネットワークを作りませんか。事業、経済そして政治も地域から。日本高齢協連合会会長理事、日本労協連の理事の高見です。人をつなぐ、協同を広げる。半藤一利さん曰く、日本人も日本社会も捨てたものじゃない!

◯ 元気な新潟からの発信をお願いします。メディア戦略を考えましょう。

 

4) 参考文献の追加

① 共生型経済推進フォーラム『誰も切らない、分けない経済――時代を変える社会的企業』(同時代社)

共生型経済推進フォーラムで社会的企業の調査をし、それを出版しました。校正中に政権交代が実現しました。関西および名古屋の社会的企業や障害福祉事業そして、生活クラブのワーカーズ・コレクティブの聞き取りの記録です。

② 『アリスアンディアリエータの協同組合哲学』(みんけん出版)

 モンドラゴンについてもたくさん本は出ていますが、これがお勧めです。

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